「科学的に正しい〇〇法」の落とし穴とは?

  • 2021年10月15日
  • 2021年10月16日
  • 思考法
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Q、「科学的に正しい」と紹介されていたダイエット法を試したのですがぜんぜんやせません。

  「科学的に正しい」方法って本当に効果ありますか?

 

ダイエット法や健康法、勉強法など「科学的に正しい」とうたっている方法をよく目にしますね。

しかし、これらは本当に効果があるのでしょうか?

結論から申し上げると「科学的に正しい方法」の多くは効果があります。

より正確にいうと「効果がでる確率が高い」です。

しかし、「科学的に正しい」方法にはいくつかの落とし穴が存在するので注意が必要です。

今回は「科学的に正しい方法」の効果と、採用するときの注意点について解説します。

科学的に正しい方法とは?

「科学的に正しい」とはいいかえると「科学的根拠がある」ということです。

例えば「〇〇という物質は脂肪を燃焼させる効果があるから、〇〇を含む食品を多く摂取した方がいい」というダイエット法や

「〇〇のような状況ではヒトの集中力が高くなるから、〇〇に近い状況をつくればいい」という勉強法などです。

そしてその根拠となるのはさまざまな分野の専門書(教科書)や論文です。

実際、「科学的に正しい〇〇法」と紹介されているもののほとんどはこれらに基づいています。

 

たしかに教科書や論文に基づく知識であれば、「個人の意見」や「個人の経験談」に比べて信頼できますね。

しかし、「科学的に正しい〇〇法」にはいくつも落とし穴があるのです。

この落とし穴に知らないうちにはまってしまうと、せっかくの方法も望む結果が得られなくなってしまう可能性もあります。

それでは、どのような落とし穴か解説します。

「科学的に正しい〇〇法」の落とし穴①:統計はあくまで「傾向」を表す

まず、1つめは「統計はあくまで『傾向』を表す」ことです。

数学や物理学では一定の法則にしたがって同じ現象が起こります。

何百回何千回くりかえしても1+1は2ですし、重力のはたらきで物体は同じように落下します。

しかし、ヒトや動物を対象とした研究ではそうはいきません。

例えば「100人が毎日30分のジョギングを1か月行った」として、「全員ぴったり同じだけ体重が減った」ということは通常考えにくいですね。

少し考えれば当たり前の話で、私たち人間にはそれぞれ差がありもともとの身長、体重、筋肉量、代謝、食生活などありとあらゆる前提条件が異なります。

同じだけ運動したとしても体重の減り方はばらばらですし、他の要素の影響が大きければ逆に体重が増える人もいます。

しかし、「100人中98人で体重が減った」という結果がでれば、「毎日30分間のジョギングは体重減少に効果がある」と「おおむね」いえますね。

 

このように「ばらつきのある結果から一定の規則性を導き出す」手法が「統計分析」なのです。

「統計分析」は実験結果やデータを分析、解釈する上で極めて有効な方法なので幅広い分野の研究で用いられています。

その一方で、「統計分析」の結果は「全員にあてはまる」ものではなく、「こうなることが多い」「大部分にはあてはまる」という「傾向」を表しているため、個々でみるとあてはまらない場合があって当然なのです。

そして、「全ての例であてはまるわけではないけど、この程度あてはまっていれば信頼できる結果といえる」という基準があり、これを満たしていると「科学的に根拠がある」といえるのです。

例えばダイエット法の研究で、「毎日30分以上ジョギングをしている人はしていない人に比べてBMIが平均1.8小さかった」という結果がでたとします。

(※BMIは体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)で計算できる体格を表す指標)

この結果を統計分析することで、この1.8という数値が「本当に意味のある差」であるのか、すなわち「有意差」があるのかを評価することができます。

「有意差がある」という結果がでれば、「毎日30分以上ジョギングをするとBMIが低くなる傾向にある」と結論づけることができます。

 

しかし、これはあくまで「傾向」であり、「ジョギングをすれば必ずBMIが下がる」ということではありません。

したがって、この結果に対して「私は毎日ジョギングしてないけれど痩せているから、この結果はあてにならない!」「僕はきちんと毎日30分ジョギングしたのに最近さらに体重が増えた!だまされた!」と怒るのは残念ながら的はずれといえます。

統計はそこまでは保証してくれないのです。

このように言ってしまうと身もふたもありませんが、最終的には「人による」ということです。

「科学的根拠がある方法」はもちろん信頼性が高くなりますが、この点は常に頭に置く必要があります。

「科学的に正しい〇〇法」の落とし穴②:サンプルは「数」だけでなく「選び方」も重要

大前提として、実験や調査を行うときのサンプル数(標本数)は極めて重要であり、サンプル数が多いほど信頼性は高くなります。

例えば「10人中8人に効果がみられたので、有効率は80%です」といわれたときと、「10000人中8000人に効果がみられたので、有効率は80%です」といわれたときではどちらが信頼できるかは明らかですね。

「分母」となるサンプル数が大きくなればなるほど「たまたま」「偶然」の影響を受けにくくなるためです。

プロ野球選手の打率もシーズンのはじめは1本打つだけで大きく変わりますが、シーズンの後半では1試合で大きく変わりませんね。

 

しかし、サンプル数が多いだけで信頼すると落とし穴にはまってしまうことがあります。

例えば、「100人にアンケートをとったところ、週3回1日1時間以上運動をしている人は95人でした」という結果がでたとします。

「みんなそんなに運動しているのか!」とおどろいていると、実は「スポーツジム」でとられたアンケートであった、のような話です。

「スポーツジム」に通うような人は定期的に運動していて当然ですよね。

このような「かたより」のことを「バイアス」といいます。

 

もちろん研究者にとって、年齢、性別、その他背景などかたよりがでないように対象を選ぶことは基本中の基本なので、きちんとした論文でここまでかたよりがあることは多くありません。

しかし、そもそもサンプルをみつけること自体が困難な分野もあり、どうしてもかたよりがでてしまう場合もあります。

また、まれに「研究者の意図」がかたよりがでてしまう場合もあり、この場合は特に注意が必要です。

仮にあなたがダイエット法の研究を行うとして、「この方法は効果がありました」と「この方法では効果がありませんでした」のどちらの結論がでてほしいですか?

当然前者ですね。

すると、100人の対象を選ぶとして、やせている人よりも肥満の人を多く選んだ方が「結果〇〇kg減りました!」という結果がでやすそうですね。

「どうせ調べるならば、意義のある結果を出したい」というは誰もがもつ当然の願望です。

もちろん、分野に関わらず大多数の研究者には「専門家としてのプライド」があり、意図的にかたよりをつくることはありません。(ないはずです)

しかし、目先の利益や成果のために無意識にかたよりがでることはないとはいえません。

 

さらに、選ばれた対象によってはそのまま結果を自分にあてはめられない場合もあります。

例えば「毎日ワインを飲む人は〇〇の病気にかかりにくくなる」という研究結果があったとします。

実際に論文を読んでみると、フランスの研究で対象も全員フランス人でした。

年齢や性別、背景にかたよりはなく、実験方法、統計分析も適切であり、いわゆる「科学的に正しい健康法」です。

しかし、これを私たち日本人が実践したとして同じ結果が得られるとは限りません。

人種や国が変われば体質は異なり、消化しやすい食物や栄養素は異なります。

例えば、日本人は小麦よりも米の方が消化しやすいといわれています。

また、アルコールの分解能力についても他の国と比べて弱いといわれています。

フランス人にとっては健康にいいワインの成分も日本人にとってはそうでないかもしれませんし、アルコールによる害の方が大きくなる可能性もあるということです。

 

反対に「科学的な根拠に乏しい」古来からの風習が実は日本人限定で良い効果がある可能性も十分あります。

海外の論文を参考にする場合はこの点にも注意する必要があります。