⑤スマホに対する考えを聞く
生活習慣やスマホの使用状況が確認できたら、つづいて「スマホに対する考え方」を確認します。
子どもにとってスマホがどのような位置付けとなっており、どの程度重要な存在となっているかによって対応が変わってきます。
例えば、「他に夢中になれることがないから暇つぶしにスマホをいじっている」、「友達とつながるために必要で、1日でもスマホなしの生活など考えられない」、「スマホゲームに熱中しているが、ゲーム機でもできるなら別にかまわない」、「つきあいがあるから必要だけど、正直他の活動の妨げになっていると感じるときもある」など子どもによって認識はさまざまです。
もう1つ重要なことが「子ども自身が、スマホを上手に付き合う必要を感じているか」です。
考え方や行動を変えるのは子ども自身であり、そのためには明確な動機や理由が必要です。
例えば、毎日朝7時に起きており遅刻や欠席も全くない子に、「毎日6時に起きてみたら?」と提案しても必要性を感じられず「なぜ?」となってしまいます。
本人が納得して行動に移すためには、「朝6時に起きることによってこれだけいいことがある」「遅刻や欠席はしていないけれど、朝7時に起きるとこれだけ良くない影響がある」「このような理由で朝6時に起きてほしいと思っている」ということをきちんと説明し、「なるほど、それなら朝6時に起きた方がいいな」と思ってもらえないと、子どもの意思で行動を変えることは難しく、長続きしません。
声かけの例)
「〇〇くんにとってスマホはどのくらい重要なの?」
「もしスマホなしで生活するとしたら何日くらいがまんできそうだと思う?」
⑥問題点を挙げる
つづいて、具体的なルール作りの準備段階として、問題点を明確にします。
前述のとおり、子ども自身がスマホ習慣を変える必要性を感じて行動しなければ、ルールをつくっても十分な効果は期待できません。
こで、会話の中で自分の生活をふりかえり子ども自身が問題点に気づいてもらうことが理想です。
「いつもスマホばかりみている」「スマホを使う時間が長すぎる」「寝る時間が遅すぎる」など一方的に抽象的な批判をしても、感情的になるだけで生産的な話はできません。
効果的なルールをつくるためには、「今現在どのような問題があるか」あるいは「今後どのような問題が起こりうるか」を明確にし、「その状況を改善するためには何が必要か」を考えてもらう必要があるのです。
例えば、「ゲームのしすぎで成績が下がったから、ゲームを没収する」というよくあるルールあるいは罰則ですが、実はこの1文だけで合理的でない要素がいくつも含まれています。
この罰則の背景となった1番の問題点はおそらく「成績が下がった」ことであり、その原因となった問題点が「十分な勉強時間が確保できない」ことであり、さらにその原因となった問題点が「ゲームの時間が長すぎる」ことであり、その解決策が「ゲームを没収する」となったものと推測されます。
一見矛盾はなさそうですが、これは本当に正しいのでしょうか?
「成績が下がった」という問題点は客観的事実ですが、その原因は「十分な勉強時間が確保できない」こととは限りません。
「やる気がなくて勉強が手につかない」のかもしれませんし、「睡眠不足で集中力が落ちている」のかもしれませんし、「実は一生懸命勉強しているけれど、勉強の仕方がわからない」のかもしれません。
それならば、ゲームを没収することは根本的な解決策にはならず、息抜きや楽しみが奪われ逆効果になる可能性すらあります。
そこで、まずは「成績が下がった」という明確な問題点と、その原因として考えられる「勉強時間が短い」「勉強に集中できない」「勉強の仕方がわからない」などの問題点を切り分けた上で、どれが(複数の場合はどれとどれが)本当に原因になっている問題点であるかを評価し、その上で解決策を検討する必要があるのです。
例えば、「勉強時間が短い」ことが問題であれば、「平日は最低2時間、休日は4時間勉強時間を確保する」、「勉強に集中できない」ことが問題であれば「集中できる学習環境を整える」、「睡眠時間が短い」ことが問題であれば「夜11時にはベッドに入り睡眠時間を確保する」、「勉強の仕方がわからない」ことが問題であれば「参考書を買ったり、塾や家庭教師を利用する」など異なる解決策が必要となります。
そもそも、強制的にゲームの時間を2時間削っても、自発的にその2時間をそのまま勉強時間にあてるというのは少し考えれば可能性が低いです。
スマホ使用のルール設定も同様で、画一的に「スマホ禁止!」「SNS禁止!」としても、それがどの問題点に対する解決策で、それが有効な方法であるのかを子ども自身が理解して納得できなければ、効果は期待できません。
そこで、「夜遅くまでメールをしてしまう」「30分に1回スマホをチェックしてしまう」という問題点を洗い出し、その問題点の原因やその問題点によって予測されるさらなる問題点を整理した上で、それらの問題点を解決するためのルールづくりを行う必要があります。
声かけの例)
「〇〇ちゃんの生活習慣をふりかえって何か気になることはある?」
「今度何か問題になりそうなことはある?」
「その問題はスマホと関係がありそう?」
⑦目標、ルールづくりを提案する
問題点が整理できたら、ここでようやくルールをつくることを提案してみます。
ルールづくりを提案するときは、あくまで「子どもが主役」であるという大前提をひきつづき守る必要があります。
子どもが前向きな反応を示したからといっていきなり「それではルールを決めます。まず1日の上限時間は1時間ね」「使う時間は減らした方がいいってさっき言ったよね?」のように豹変したら、前向きな気持ちも一瞬で180度方向ベクトルが変わってしまいます。
脈ありと判断した途端に、鼻息を荒くして契約内容の説明に入る営業の人のようになることは避けたいところです。
特に、ここまでの段階で「スマホを取り上げたり、禁止する目的ではない」と約束をしている場合は最後までそれを守る必要があります。
子どもにとっても、約束を守ってくれない人とスマホ使用の「約束」について生産的な話ができるはずがありません。
声かけの例)
「さっきの問題点を解決するために、少しでもできそうなことを一緒に考えてみない?」
「スマホともっと上手に付き合えるようなルールを自分で考えてみない?」
⑧ルール、目標を決める
ここでようやく目標やルール設定となります。
いざルールをつくるとなると、やはりいろいろを口を出したくなります。
しかし、その後子ども自身がルールを守り行動するためにも、目標やルールを決める過程こそ、「自分の力で考え、決める」ことが重要となります。
そこで、おすすめの方法は、まず「ルールの原案を子どもにつくってもらう」ことです。
このとき⑥で考えた問題点を解決するという視点でルールをつくってもらいます。
さらに「これだけはルールに盛り込んでほしい」という項目を厳選して、その大枠のみ伝えて具体的なルール子どもに決めてもらいます
原案が完成したらみせてもらい、あらためて話し合いを行います。
良いルールにはしっかりと賛同し、追加や修正が必要なルールには批判的にならないように意見や希望を伝え、やはり自分自身で修正してもらいます。
このとき、「なぜ追加や修正が必要か?」という明確な理由とともに伝えることがおすすめです。
このようにブラッシュアップをくりかえし、ルールをさせていきます。
また、小さな目標を達成することにより、達成感を得ることができモチベーションを維持する上でも有効です。
声かけの例)
「じゃあルールの案ができたら見せてね」
「くわしいルールはまかせるけど、この項目だけは入れてほしいかな」
「このルールはすぐに実践できるし、続けやすそうですごくいいね」
「このルールだと睡眠時間が6時間しか確保できないから、スマホを終了する時間をもう1度考えてみてほしいな。」
⑨定期的にふりかえる
ルールが決まったらあとはルールに基づいて行動してもらうだけですが、そうはいってもいきなり完璧に決めたルール通りに行動できる子は多くありません。
子どもに限った話ではないかもしれませんが。
ルール通りに行動できないのは、必ずしも自己コントロール力が低いからとは限りません。
ルール自体が厳しすぎたり実際の生活習慣に合っていなかったり、ルールを設定する時点ではわからなかったルールの穴に気づいた場合などもあります。
そこで、1か月など一定の期間が経過したら、どの程度ルール通りに実践できているか、生活習慣にどのような変化があったかをふりかえることをおすすめします。
現実的でないルールや負担が大きい生活習慣とわかりながら、そのまま無理して続けていると、スマホ依存予防効果が期待できないだけでなく心や体に負担がかかり別の体調不良に陥ってしまうかもしれません。
改善や修正を行う場合は、ここまでと同様に子ども自身に問題点を考え、改善案や修正案を考えてもらい、相談をしながら決めていく方法がおすすめです。
注意が必要なのは、目的はあくまでも「ふりかえり」を行い、「よりルール通りに実践できる方法はないか?」「ルールで修正すべき点はないか?」などを考えるきっかけとすることです。
ルールを守れているかどうかを監視したり、守れていないことを非難する性質のものにならないように十分注意したいです。
また、ルール通りに実践できていた場合もできていなかった場合も、「生活習慣を変えるために自分でルールを設定し、それを実践しようと努力した」という過程を認め、ほめることはその後のモチベーションを保つ意味でも非常に重要です。
声かけの例)
「決めたルールがいまの生活に合っているかいっしょにふりかってみない?」
「もし合っていないルールがあれば、何か変えられることがないか考えよう」
「ルールを守るために、このようにがんばったんだね。」
「目標はまだ達成できなかったけど、この工夫は良かったと思うよ」
「次の目標をまた決めてみない?」
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