子どものスマホ依存を予防する方法とは?

① 運動

スマホ以外の活動としては、熱中できることであれば全て効果的ですが、期待される効果、始めやすさ、続けやすさのいずれの面においても「運動」は最もおすすめの方法です。

まず、運動することでドーパミンの分泌が促進され集中力が高くなります。

集中力は「考える力」の根幹をなすものであり、あらゆる認知機能も期待できます。

また、運動により記憶力、発想力も高くなることがわかっています。

さらに、睡眠の質が改善されたり、食欲が適切になったり、ストレスにも強くなるなどの効果もあり、相乗効果でさらなる好循環も期待できます。

つまり、運動を行うことにより、子どもの成長・発達に関わるあらゆる重要な要素への好影響が期待できるのです。

また、運動は「小さな成功体験」を得やすく、「熱中」状態に入りやすいというメリットもあります。

「はじめはうまくいかなかったけれど、練習や試行錯誤の結果できるようになった」という成功体験は、子どもが自信をもち「もっとうまくなりたい」という気持ちが芽生えるきっかけとなります。

運動の種類は、すでに経験があるスポーツでももちろんかまいませんし、新しいスポーツやジョギング程度から始めてもかまいません。

基本的にどのような運動でも効果は期待できます。

特に現在あまり運動していない子では、いきなり2時間みっちりサッカーや水泳などを行うのは現実的ではありませんし、続かない可能性が高くなります。

まずは、10分間のジョギング程度からでも大丈夫です。

あまり激しい運動である必要はなく、心拍数が上がり呼吸が速くなる程度の強度があれば十分です。

理想的には、何かしらの形で毎日30分程度からだを動かす習慣をつけることがおすすめですので、慣れてきたら少しずつ時間を長くしてみてください。

もう1点、運動の中で「遊び」の要素を入れたり、「小さな成功体験」を得られる工夫をすることがおすすめです。

例えば、ジョギングのときに「家に帰るまでに信号はいくつあるでしょうか?」とクイズにしたり、「先にイヌをみつけた人の勝ち」などゲームにするなどです。

あるいは、スポーツなら「100メートルのタイム」や「連続して走った時間」、「キャッチボールやリフティングの成功回数」など客観的な数値を使って「小さな目標」を設定して達成することで、「小さな成功体験」による報酬系を強化が起こりモチベーションを維持しやすくなります。

② 音楽

楽器を練習することもおすすめです。

楽器も「練習することで少しずつ上達する」という成功体験が期待できます。

また、楽器を演奏するためには、演奏しながら、同時に頭の中で次の動作の準備をすることが必要となります。

さらに楽譜なしで演奏する場合は、それらを頭の中だけで処理する必要があります。

また、多くの楽器では左右の手で異なる動きを行う必要があり、ドラムやエレクトーンなど楽器によっては手足でばらばらの動きを同時に行う必要があり、脳のさまざまな部位が活性化されます。

楽器演奏によって集中力や記憶力、さらには運動能力を高める効果があることも報告されています。

新しい楽器を始めるときは「楽しい」「おもしろい」と感じられるまでのハードルが少し高い場合がありますが、運動と同様に「小さな目標を設定」し、「小さな成功体験」をくりかえすことで、「熱中」状態に入りやすくなります。

1つ注意が必要なのは、運動や他の活動でもいえることですが、楽器はどうしても「子ども本人の希望」で始める場合より、「この楽器を習わせたい」という「親の希望」で始める場合が多くなります。

もちろん、年齢によっては子どもが自発的に興味をもつことは難しく「きっかけ」が必要であることも確かですし、親子で嗜好や得意分野が似ることはめずらしいことではないため、「親自身が得意な楽器」「親自身が好きな楽器」から始めることは理にかなっているともいえます。

また、親自身に経験がある楽器の方が一緒に楽しんだり、教えやすいという利点もあります。

しかし、子ども自身が楽しめず「義務感」でいやいや続けている場合は、報酬系を強化するどころかストレスがたまり逆効果となる可能性もあります。

あくまで主体となるのは子どもであり、「自分の意思で続けている」という感覚があってはじめて、良い循環に入ります。

もちろん、序盤の結果がでない時期をがんばって乗り越えるという経験も、上達するためや「自己コントロール力」を鍛える上で必要ではあります。

しかし、ある程度練習をつづけても子ども本人が楽しめていない場合は、うまく報酬系が回っておらず、当然「熱中」状態にはなりにくいため、別の楽器に変えてみるという選択肢も検討する必要があります。

③ 趣味や課外活動

まわりの人からの情報も得やすく始めるハードルが高くないという意味でも運動や音楽がおすすめですが、もちろん他の活動でもかまいません。

例えば、絵を描いたり、植物を育てたり、工作やDIYをしたり、釣り、キャンプに行ったり、科学館や動物園に通ったりと熱中できることであれば何でもかまいません。

試行錯誤する経験はどのような形でも効果的であり、その経験は多いに越したことはありません。

子どもにどのような才能があり、どのようなことに熱中するかは実際に取り組んでみなければわからないので、やはり「熱中できることを発見するきっかけをつくり、熱中できる環境を整える」ことが重要となります。

また、試行錯誤する中で壁にぶつかったとき、インターネット上の情報や動画サイトが助けになります。

困ったときに調べて問題を解決することにより、「必要なときだけ能動的にスマホやインターネットを使用する習慣」「必要な情報だけを手に入れる方法」を学ぶ練習にもなります。

④ 現実世界でのコミュニケーション

スマホがこれほどまでに私たちを惹きつけるのは「容易に人とつながることができるツールである」ことが大きな要因の1つです。

しかし、「人間関係を学ぶ」という意味において、現実世界でのコミュニケーションに優るものはありません。

人間同士のコミュニケーションは、実は「ことば」ではなく「表情」や「しぐさ」など非言語的なやりとりが多くを占めているのです。

そして、言葉以外の情報から感情や意図を読み取れるようになるには、ことばを覚えるよりも長い時間を要することがわかっています。

私たちは、長い時間をかけて家族、同級生、先輩や後輩、学校や園の先生、恋人などさまざまな人と顔を合わせてコミュニケーションを学ぶのです。

また、会話によって幸せホルモンともよばれるオキシトシンの分泌が活性化され、幸福感を得たり、ストレスを和らげリラックスする効果もあることがわかっています。

しかし、スマホでのコミュニケーションは、現実世界のコミュニケーションの完全な代替品とはなりません。

顔を見て会話ができお酒も飲める「オンライン飲み会」でも味気無さを感じたり、後日直接会話をしたとき「直接会って話すのはやっぱりいいな」と感じた方も少なくないと思います。

コミュニケーションを学んでいる真最中の子どもはなおさらです。

実際に友達と会って話したり、いっしょに遊ぶことで小さな端末の中で行われるコミュニケーションへの執着から少し解放されるかもしれません。

ただし、スマホ依存の有無に関わらず、直接会って話すことが苦手な子もいますし、逆にストレスになってしまう子もいます。

そのような子どもに現実世界でのコミュニケーションを強要することは、逆効果であり悪い方向へ向かう可能性もあります。

あくまで子どもの性格を考慮し、本人の気持ちや意思を尊重していただきたいことを強調しておきます。

⑤ 誰かのために行動する

人間も生物である以上、基本的には自分の利益のために行動します。

自分が生きるため、自分が快感を得るために衝動や欲求があり、それに従い行動します。

そして、自分の衝動や欲求が他人のそれと対立する場合は「争い」が起こります。

食料や水、富や配偶者をめぐって命の奪い合いまで起こってしまうことは、人間の歴史を振り返っても疑いの余地はありません。

「自分の利益を追求する」ことは人間を含む生物にプログラムされている自然な行動であり、他人の利益を不当に損なったりしなければただちに否定されるものではありません。

しかし、「自分の利益のためではなく、自分以外の利益のために行動する方が幸せや快感を感じやすい」というのも人間のもう1つの側面です。

このことを示唆する有名な実験があります。

朝5ドルをもらい、夕方までにその5ドルを自分のために使うように指示されたグループと、自分以外の誰かにあげるように指示された2つグループに分けました。

その結果、自分以外の誰かに5ドルをあげたグループの方が幸福を感じやすかったという結果となりました。

同じことを20ドルでも行いましたが結果は同様でした。

つまり、金額によらず、「誰かにあげる」という行為自体が幸福感につながったことを意味します。

さらに、子どもを対象にした研究でも同様の結果が出ています。

2歳未満の子におかしを渡して、そのまま食べてもらったグループと、おかしの一部を人形に分けてあげてもらったグループに分けたところ、人形に分けてあげてもらったグループの子どもの方がうれしそうな表情をしていたという結果でした。

これは、脳が未発達な子どもにおいても、「たとえ自分の取り分が減ったとしても誰かのために行動することで幸福感を感じる」ことを示唆しており、人間にとって本質的なことと言えそうです。

いわゆる「はんぶんこ」は単に社会のルールを学んだり、人間関係を円滑にする術にとどまらず、お互いが幸せを感じられる理にかなった方法といえるのかもしれません。

スマホが依存の原因になりやすい理由の1つに「承認欲求を満たしてくれる」ということが挙げられます。

「承認欲求」とは、「誰かに認められたい」「誰かに褒められたい」といった欲求のことで、ほとんどの人間が持っているものです。

SNSでは多くの場合、「いいね」に代表されるように「共感」の意思を示す機能がついています。

SNSに投稿した内容に対して「いいね」や好意的なコメントをもらったり、フォロワー数が増えたり、リツイートされたりすることで「承認欲求」が満たされ快感を得ることができます。

だからこそ、スマホが気になってしかたないのです。

しかし、SNSでのやりとりは一見双方向のコミュニケーションにみえますが、実は一方向の要素が強いのです。

「〇〇に行った」「〇〇をした」「〇〇を買った」などの投稿は、基本的に「相手のための行動」ではなく、「自分の承認欲求を満たすための行動」です。

もちろん、相手にとって有益な情報であったり、相手を楽しませることを目的とした投稿もないとはいえません。

また、「承認欲求を満たす」ことはさらにレベルの高い欲求に到達する上で必要なステップでもあります。

しかし、SNSに依存するとそれ自体がゴールになってしまい、「承認欲求の満たし合い」をくりかえしてしまうおそれがあるため注意が必要です。

自分のためだけなく誰のために行動することで、より高い次元の欲求へ到達することができる可能性が高くなります。

以上の理由から、「誰かのために行動する」こともスマホ以外の活動として非常におすすめです。

例えば、小学生以上であればボランティア活動などに参加することなどがおすすめですし、未就学の子であれば家のお手伝いがおすすめです。

ただし、ボランティア活動は相手や他の参加者もいるため、本人が乗り気でない場合はおすすめしません。

また、運動ならチームスポーツ、音楽なら吹奏楽やバンドなども、活動自体が自分のためにも仲間のためにもなります。

運動や音楽以外でも、趣味のグループをつくって仲間と大会に出場したり、プロジェクトを立ち上げてそれを目標に仲間と協力することもおすすめです。

「情けは人の為ならず」という有名なことわざがあります。

「人に情けをかけておけば巡り巡って良い報いが返ってくる」という意味ですが、実は巡り巡らなくても幸せを感じることができたのです。

「誰かを幸福にするための行動をとると、幸福を感じられるのは自分の方」と考えると、改めて深いことばです。